Halcyondays~安息の日々~ (作:真木逸美)
今を生きるのに必死で
思い出すことも少なくなってしまっていた
二度と帰れない故郷
もう戻ることのない…
『Halcyondays~安息の日々~』
朝、例のごとくソレイユにたたき起こされたリュヌは外で薪割りをしていた。
「お疲れ様、お兄ちゃん。朝ごはん、もうできるからね。」
「……
>ありがとう、ソレイユ。
>薪割の前に食べたかったな…
>さっさと食べさせろ
ありがとう、ソレイユ。」
「どういたしまして♪」
薪割りを終わらせたリュヌは、ソレイユが作ってくれた朝ごはんを食べた。
両親がなくなってから作ってくれているソレイユの料理は、お世辞抜きにおいしい。
今日は特にやることはあっただろうか。
リュヌはただなんとなく村の中を散策する。
「あれ、リュヌじゃない。どうしたの?」
「コレット…。」
「あ、わかった。また、ボーっとしてたんでしょ。」
リュヌは頷く。
「あは。リュヌらしぃ~。」
「……
>で、何のよう?
>コレットは何してたの?
>コレットは何企んでるの?
コレットは何してたの?」
「え、わたし?わたしは…。そうだ!リュヌ、今暇よね?」
「……
>うん、まぁ…。
>勝手に決めないでよ…。
>コレットに関わる暇はないよ。
うん…まぁ…。」
「じゃあ、ちょっと付き合ってよ。」
「……。」
リュヌは、少々の間の後黙って頷く。
連れてこられた場所は、コレットの家だった。
家へ入るなり、コレットは台所に行ったきり、戻ってこない。
リュヌは嫌な予感を覚えつつ、勝手知ったる幼馴染の家でボーっと…いや、考え事をして待っていた。
何分経ったか、台所から妙な臭いがしてきた。
「……。」
コレットが持ってきたものを見て、リュヌの予感は確信へと変わった。
「さっき、村の畑でおもしろい野菜見つけてね、おばさんにもらってきたんだ。で、早速今料理してみたの。」
コレットは楽しそうに話しながら、その料理と思われるものをテーブルに置く。
「ねぇ、リュヌ。食べてくれるよね?」
「……。」
リュヌは静かに料理を見る。
切った野菜の大きさはバラバラ。そのため、小さいものは崩れたり、大きいものは火が通りきらずまだまだ硬そう…。
肉にいたっては赤みが見え、火が通っているのか心配になる。
そして何よりも…その「おもしろい野菜」とやらは、本当に野菜だったのだろうか?ソレは普通ではありえない色と臭いをしている…。
「どうしたの?リュヌ。」
笑顔で料理を差し出すコレット。
しかし、その笑顔には有無を言わせないような何かがあった。
「……
>…いただきます。
>ごめん、まだ死にたくない…
>(黙って逃げ出す)
……いただきます。」
食べても食べなくても倒れることになるのなら、わざわざコレットの機嫌を損ねることもないだろう。
リュヌは、覚悟を決めてその食べ物であるはずのものを口に運ぶ。
「どう?今回のは、結構自身あるんだぁ♪」
言葉のとおり、誇らしげに言うコレットだが…彼女の手料理は、なんというのか…奇抜な味がしていた。
「……。
>ホントだ…結構おいしい…?
>ごめん、帰っていい?
>せめて、人の食べるもの出してくれない?
…………………………コレット…」
リュヌは頭に浮かんだ選択肢を無視して、絞り出すような声でそれだけ言う。
「なに?」
コレットは、期待のこもった目を向けてくる。
「……味見、した?」
「…………え?」
…リュヌが意識を手放す寸前に見たのは…コレットの、間の抜けた顔だった…。
「―…ヌ、…リュヌ!」
誰かの呼ぶ声がする。
「……ソレイユ…?」
いや、違う。ソレイユなら、「お兄ちゃん」のはずだ。
ならばコレットか。いや、これは少年の声…
「おい、リュヌ!起きろよ!」
「なんだ?リュヌはまだ起きないのか。」
「うん…まだ、寝てる…。」
「あ~、寝顔もカワイイ♪リュヌ~、早く起きないと、いたずらするぞ~?」
「……!」
リュヌは跳ね起きる。
「ふぅ、やっと起きたか。」
「……フォルテュナ?ジルさん?…ベル…。」
「おい、まだ寝ぼけてんのか?早く起きないと、置いてくぞ?」
「今日、何かあったっけ…?」
「鍛錬…。昨日、約束した。」
「……。
>ごめん、忘れてた…
>そうだっけ?
>約束とは破るためにあるものさ。
…ごめん、ベル。忘れてた…。」
「別に、僕はいいけど…」
ベルナールは静かに答える。…相変わらず表情が乏しいが、怒ってはいないようだ。
「あっれ~?リュヌ。もしかして、泣いてた?」
「え…?」
気付いていなかったが、目が少々潤んでいるようだ。
「……
>夢を見たんだ。
>寝起きだからだよ。
>…朝日がまぶしくて…
……夢を、見たんだ…昔の…。」
「夢?」
「……。」
「そうか…」
リュヌの言葉から事情を察したのか、三者三様の反応を見せる。
「……リュヌ、かっわい~。俺が慰めてあげようか?この胸の中で。」
その微妙な空気を変えてくれたのは、ジルの言葉だった。
「お前なー。」
フォルテュナもそれに気付いて、軽いノリでジルをはたく。
「……」
「リュヌ、大丈夫?」
リュヌは、何も言わずそれを見ていた。
「ジルの言うことなんて真に受けるなよ?」
「……。」
「あっれー?どうしちゃったのかな?美少年。」
「……大丈夫。鍛錬…だよね?」
「あ、あぁ。」
「じゃ、行くかぁ?」
リュヌはすばやく着替え、四人は部屋を出て行く。リュヌが三人に続いて出ようとしたとき、前にいたベルが振り返った。
「…リュヌ…どんな夢…見てたか、想像しか…できない。けど…。ここが、リュヌの部屋だから。何かあったら、フォルテュナも…ジルさんも、いる。…僕も……リュヌといると、うれしい。…一緒にいたい。だから……」
「……
>ありがとう。
>そんなこと、言われなくても分かってらぁ。
>…何臭いこと言ってるんだよ。
…………」
リュヌは、何も言わず…、何も言えず…ベルにしがみついた。
ベルは驚いていたけど、かすかに微笑んで、受け止めてくれた。
あの頃にはもう戻れない
あの、心地よい場所、人、空間。
もう、二度と「同じもの」を手に入れることはできない。
でも…「ボクノイバショハ、ココニアル…」
end.
- 作者様より -
まずはPhysical Room C.S.K.の皆様、三周年おめでとうございます。
今回で三回目の参加となります。普段なかなかサイトを見たり、カキコさせていただいたりができない私ですが、ちょくちょく新情報などはチェックして、ゲームも楽しくやらせていただいております。
今回は、新作「La lune froide」の小説に挑戦しました。
普段書いてるのがオリシ゛ナルばかりな上、今年は時間があまりとれず、プレイ回数がまだ一回だけ、という大変申し訳ない状況の中で、無謀な挑戦をしました;
原作のイメージを壊してしまったらすみません;
ちなみに私は、ベルとジルが好きです♪
コメントが長くなってしまいましたが・・・。
今回応募させていただき、ありがとうございました。思った以上に時間が無く、「間に合わない・・・」と焦りましたが、締め切りが延びたおかげで何とか間に合いました・・・よね?その癖に短いですが;ですが・・・私は楽しんで書かせていただきました。皆様にも、少しでも楽しいと思っていただけたならば幸いです。