タマ騒動 (作:Maki)
それは、ある日の午後、突然起こった…
「大変だ!」
白狼隊の面々が、昼の巡回を済ませ、葵屋でくつろいでいたところに、隊長である片桐実時が飛び込んできたのだ。
「魍魎ですか?」
普段は冷静沈着な隊長のあわてる姿に、美景は只ならぬ雰囲気を感じた。
「いや、違う。」
魍魎ではないという答えに、多少安心したが…
「それならなにがあったんだよ。実時兄」
「それが、大変なんだ。」
その場の全員が息を飲む。
「タマが…」
(タマ?)
美景は眉を顰める。
「タマがおとといから帰ってこないんだ!」
……葵屋内に、珍妙な空気が流れる。
「タマといいますと、実時殿が拾った猫の名前でしたよねぇ。」
廉次郎が微笑を浮かべながら尋ねる。
「なんだ、猫の話かい。」
猫と聞いた途端、舘羽は興味をなくしたようだ。
「そういえば、今朝えさをやったとき一匹足りなかったな。」
惣助は、気付いてはいたが余り気に留めていなかったらしい。
「…で、どのタマだ?」
「惣助殿、『どの』とはどういうことですか。」
「いや…、それはだなぁ…。」
言い渋る惣助代わりに、由紀彦が答える。
「実時兄って、おんなじ名前ばっかつけるんだ。俺が知ってる中でもタマが五匹に、ミケが三匹、トラが二匹それから…クロも二匹はいたと思うけど…。」
「…そ、そうなんですか。」
美景はなんともいえない顔をして、実時を見る。
「どのタマって、タマはタマだろう?黒いぶちがあって、一番からだが大きくて…。」
「…ああ、あの一番食い意地張ってるやつか。いつもはあいつのせいで、ちび共がろくに食べられねえんだ。」
片桐家の主夫惣助は、猫の食事にまで頭を悩まされているらしい。
「頼む、探すのを手伝ってくれないか?」
「俺はいいよ。実時兄の頼みだしな。」
「私もかまいませんよ。巡回も終えましたし。」
「私はこれから寺子屋に行かなければ行けませんが…。道すがら探していきましょう。」
「私も手伝おう。暇つぶしくらいにはなるだろうし?」
最後に、皆の視線が惣助に向けられる。
「……仕方ねえなあ。あいつのことだから、すぐに戻ってくるとは思うけどな。」
こうして、白狼隊の猫捜索が始まった。
タマは見つからないまま、いつの間にか夕方になってしまった。
「いませんねぇ。」
寺子屋の授業を終えた廉次郎も、捜索隊に加わって、総勢六名が、村の北側にある神社の鳥居に集まっていた。
「舘羽殿、そちらはどうでしたか?」
「森のほうまで見てきたけど、猫は居なかったよ。…犬耳の人型妖怪なら見たけど。」
「コロが…柳牙が居たのか?!」
「ええ。狸の魍魎と、人生を語り合っていましたよ。」
(狸?!…ぽん太だ、きっと。)
「隊長、どうしますか?」
「…うむ。」
実時は難しい顔をして黙っていた。
そこへ
「あら、美景様ではありませんか?…皆様おそろいで、どうかなされましたか?」
「麗殿…。いえ、少々探し物を…」
まさか、江戸の治安維持活動をする白狼隊がそろって猫を探していただなんて…。
言えるわけがない。
「そうだ、ちょうどよいところに。」
「何かあったんですか?」
「それが、昨夜から猫が一匹うちの境内に住み着いてしまって。野良猫には見えないのですが飼い主が分かりませんし…。」
麗の言葉に、皆顔を見合わせた。
「まさか、その猫に黒いぶちはありませんか?」
「ありますよ。」
タマかもしれない。
「その猫はどこにいますか?」
「境内のどこかにいると思いますけど。」
「ありがとうございます。」
その後、一刻もたたぬうちに、タマは見つかった。こうして、タマ失踪事件は幕を閉じたのだった。
「でもよ~、なんで誰も神社を探さなかったんだ?」(由紀彦)
「………作者に聞いてください。」(美景)
- 終 -
- 作者様より -
この[タマ騒動]楽しく作らせていただきました。キャラクターの言葉遣いをつかむのが大変でした。
日本語的におかしいところもあるかもしれませんが、なにぶん未熟なもので・・・どうかお許しを。
少しでも「面白い」と思っていただければ幸いです。