日常 (作:陸杜)
ナツミは騒がしいほどに辺りを走っていた。
洗剤がどうのこうのという声が聞こえてくる。
ドタドタバタバタバタッ……ドテッ…
…転んだらしい。
大丈夫ですか、と声をかける者も居れば、
相変わらず、国宝級のドジだと呆れる(楽しむ?)人もちらほら居る。
「だ、大丈夫ですか?」と、ナターシャ。
ルッツも心配そうに駆け寄る。
「…気絶してますね。とりあえず医務室に運んだ方がいいでしょう。」
担架持ってきますから、と、つけたして軍医はエレベーターに向かった。
「めずらしいネ、ナツミが自分のドジで気絶することなんて滅多にナイヨ。」
「バチが当たったんじゃない?司令の紅茶に間違えて洗剤入れたりするから…」
いくら悪気が無くてもどんなに世界遺産級の天然でもやっていい事と悪い事がある。
リンネルのバチが当たったという発言に一同は心の中で納得した。
「ナツミお姉ちゃん大丈夫かなぁ。」
「大丈夫だろ。」
エミリオはそっけなく言った。
「いや分からないよ、こうゆう気絶する展開で記憶喪失になったりするし…」
この声はアランだろう。
「記憶喪失!?」と、リュート。
「それって捻りの無い展開ダネ。」
シャオユンはどこかで聞いた台詞を繰り返した。
ナツミのドジで騒いでる間、一方アイ、クレス、ショウ、ヘキは、というと資料室に居た。
どうやら本の整理をしているらしい。
「ショウ君!この本そっちに置いて!」
おう、任しとけ、と言いたいところだが
(…前が見えねぇ。)
どんなに薄っぺらい本でも重なれば結構、重い。
それに積みすぎて前が見えない。
(根性で運ぶか…)
横目でヘキを見ると自分より多い本の量をテキパキと運んでいる。
「ヘキって怪力なのか…」
「今更気付いたの?」
独り言のつもりだったのに結構大きな声で言ってしまった。
「怪力…クレスにもそんな事言われた。」
ヘキにも自分の独り言が聞こえたらしい。
「ヘキ君ってすごいんだよ。バリーンってやっちゃったんだから。」
「バリーン?」
クレスの言ってるのは惑星C-13のときの任務のことである。あの時ヘキは自慢の怪力で(本当は違うのだが)エイリアンを召還していた丈夫な石を壊したのである。
しかし、一緒に同行していなかったショウには分かるはずもない。
「ショウ君とヘキ君が手伝ってくれて、ほんっっとうに助かったよ。」
アイは辞書を本棚に入れながら喋る。
「いつもこんなことやってるの?」
クレスが作業をしながら尋ねた。
「ううん。今日が初めて。本がぐちゃぐちゃになってたから整理整頓しなくちゃいけないなぁって思ってたの。そう思っていたところにクレス達がやってきて手伝ってくれるっていうから私、嬉しかったよ~。」
確かに、これはなかなかの重労働である。男手も必要になってくるだろう。
「今日中に片付けなくちゃいけない原稿があって整理整頓とかしたらそっちのほうが終わらなくなっちゃうんじゃないかと内心心配で…」
……原稿?
ぴたり、とその場の何かが止まった様な気がした。
「トーン貼り終ってないしさぁ。」
アイは一人でべらべら喋っている。
どうやら墓穴を自分で掘ったことに気付いてないらしい。
ショウも、クレスも、…ヘキでさえ自分の作業を忘れてアイの話を聞いている。話の異端さに気付いているようだ。
最初に口火を切ったのはやはりクレスだった。
「…アイちゃん、トーンって?」
「え、なにそれ、空耳じゃない?」
「俺にも聞こえたんだけど、原稿とかトーンとか。」
「空耳だってば。」
やだなぁ、二人してなんの冗談?とアイはしらばっくれた。
…密かに流れていた冷や汗を拭いながら。
全ては日常の出来事。
そんなこんなで時間はゆっくりと、時には早く過ぎていく。