4th Anniversery

夫婦喧嘩は犬も食わない。 (作:シルヴァイン)

「あの…」
 鈴音は小声で隣の赤…美景に耳打ちする。
「なんです?」
「いや……その…」
 ややためらってから告げた。
「隊長と惣助さん、どうしたんですか一体」



 『白狼恋歌――――夫婦喧嘩は犬も食わない。』



 先ほどから鈴音が疑問に思っていたのは隊長…実時と彼の家に居候している惣助の奇妙な様子だった。
 もう半日、実時と惣助が会話を交わしていない。
 普段の様子なら些細なことでも意見交換をし、他の者に比べ表情に起伏の少ない実時も笑い声の一つぐらいは立てるのだが。
 と、問われた美景も小首を傾げて見せた。彼にも全く原因がわからないらしい。
「昨日は…なんともなかったですよね…」
 弱ったなぁ、という調子の彼に、鈴音は頷きを返した。
 かといって二人のどちらかが機嫌が悪いというわけでもなく、今も実時は廉次朗と平時通り言葉を交わしている。
 ともかく、なにか知っているとしたら
 (やっぱり、由紀彦君かなぁ…)
 順当にそう考えて、由紀彦に話しかける機会を得るまで、会議が終わるまでは実時の話を聞くことにした。

 □

 定例会議が終わり、実時と廉次郎とが屯所へ残る。
 他の皆は自主見回りだとか帰るだとかで出ていく。
 その段階になってようやく、鈴音と美景とは示し合わせて外へ。
 由紀彦を捕まえた。
「え?惣助兄と実時兄?」
「うん。どうみても様子がおかしいから…」
「由紀彦なら何か知ってるかと思って」
 口々に言う鈴音と美景に、由紀彦は少し悩む様子を見せた。
 それを認め、美景が問う。
「……何か、言いにくい理由?」
「あ、いやそうじゃなくて」
 違う違う、と即座に否定する由紀彦。
 じゃあ、なに?と聞く二人に、彼は困ったように告げた。
「いやさ、俺もわかんないんだ…なんか朝起きたらああなってて…惣助兄は屋敷にいないし…」
「おや、興味深いね。私も混ぜてくれるかい?」
 と、突如現れたのは太陽のような綺麗な髪。
 興味津々、らんらんと輝くのは青い瞳で、楽しげに美景の肩を後ろから叩く。
 ひぃ、と突然のことで情けない声を上げた美景に、鈴音はそちらの方を見て目を眇(すが)めた。
「舘羽さん……どこにいたんですか…帰ったんじゃ…」
「うん、まあね。君達の挙動が気になったんで…」
 って、そんなことはどうでも良いんだ、と切り返す。
「由紀彦、一体あの二人どうしたんだい?惣助殿が朝いなかったのかい?」
 舘羽の問いに、由紀彦ははっとしたようになる。
「あ、そうなんだ。昨日俺は早く寝たんだけど…朝起きたら惣助兄がいなくて。…猫達の餌だけは用意してあったけど。でも実時兄は何も言わないでさ、俺と自分のご飯作って食べて、出てきた」
「それは…また妙だね」
 片桐家には膨大な数の猫が住んでいる。
 その皆に餌を用意するのは結構な手間だが、惣助はわざわざ片桐家に立ち寄って餌を出してやってからこの屯所に来たことになる。
 だから美景が思わず妙だと零すと、だろ?と由紀彦も片眉を上げた。
「で、ここに来て俺は惣助兄に何処にいたのか訊いたんだけど…惣助兄は『宿に泊まった』って。俺もそれ以上は訊けないしさ…」
 鈴音も舘羽も、ふうん…と考え込んでしまう。
「気になりますね……」
「気になるね…じゃあ」
 じゃあ?と舘羽に三者の視線が集まる。
 それを感じとると、彼は人差し指を立てて茶目っ気を込めて笑う。
「次は廉次郎殿にも聞いてみようか?」

 □

 お二人の不仲の理由ですか?と再び屯所へ帰って来た四人を前にして廉次郎は問い返した。
 彼と話していた実時は既に屋敷へ戻ったか自主巡回へ出たのだろう。
 彼も無論実時、惣助の異変には気がついていたが、
「そんな、由紀彦に解らないものが私に分かると思いますか?」
 困ったように返すしかない。
「で、ですよねー…」
「ねぇ、廉次郎殿も気にならないかい?」
 舘羽の問いかけに、廉次郎はさらりと答えた。
「気になりますね」
「じゃ、決まりだ。皆で二手に分かれようじゃないか」
 え、と舘羽の横に立った鈴音が疑問を口にする。
「二手に…」
「決まってるだろ?本人達に聞いてみよう」
「それは…そっとしておいた方がいいんじゃありませんか?」
 美景がそう言うと、解ってないな、と大げさに舘羽は肩を竦めて見せた。
「そっとしておいて、いつまでもあんな調子だったらどうするんだい?こっちも調子が狂うよ」
「でも…」
「なにより」
 きらん、という擬音と共に彼の目が光った気がした。
「面白そうなことには首を突っ込みたい。と、いうことで私と美景殿と鈴音が隊長を担当、廉次郎殿と由紀彦は惣助殿だ」
 うまく聞き出すよー!といつになく楽しそうな様子の舘羽に、美景と鈴音は冷や汗を流したが、
「ふふふ…面白そうですね…。分かりました。ではそちらはよろしくお願いしますね」
「じゃ、また後でな!」
 廉次郎と由紀彦はとても楽しそうに良い笑顔で先に外へ出てしまった。
 惣助の行き先に当てがあるのだろう。
「………はぁ」
「なんで、こんなに皆、野次馬なんでしょうね」
 溜息をついた美景に鈴音も応じる。
 と、舘羽が後ろから二人の肩を抱いてきた。
「さ、私達も行こうか?二人だって、面白そうだと思うだろう?」
 こうして美景と鈴音は舘羽について行くことになったのだった。

 □

 廉次郎と由紀彦とは、勝手知ったる江戸の街を歩きながら惣助を探していた。
 ああやって舘羽達と別れたものの、
「何処行ったんだろう惣助兄ぃ…」
「いつもいるような所は粗方探してしまいましたね…」
 未だ惣助は見つからない。
 栄屋で若菜にも訊いてみたが、今日はまだ姿を見せていないとの答えを得た。
 あと残っている所といえば…と考えて、廉次郎は由紀彦を見た。
「北へ行ってみましょう」
 え、と由紀彦は戸惑う。
 北へは一度足を運び、街路はもう歩き尽くしているはずだ。
「北ってもう大体歩いたんじゃ…」
 と、そこまで言いかけて気がついた。
 まだ、《その先》は歩いてみていない。
 街路の先には、
「あ…川と、橋がまだあるよな」
 そうです。と廉次郎は笑った。
 北の先程二人で歩いてみた街路の先には川が流れ、待ち合わせなどに使われる広い橋がかかっている。
 ただ、普段惣助が行きそうな場所でなかったので、由紀彦は自然と頭の中から除外していたのだ。
「惣助殿が行きそうな場所ではありませんが…」
 由紀彦の心を読んだように廉次郎が呟いた。
「行ってみても、損はないでしょう」

 □

 二人、辺りの人影を確認しながら、ゆっくりと北の橋を目指した。
「はぁ………」
 そして、二人の捜索対象・惣助は立ち寄った茶屋で溜息を吐き出していた。
 全くもって心中、自己嫌悪に尽きる。
「八つ当たり、だな……」
 悪かった、自分が悪いのだとは思う。
 だが、もう片桐家の屋敷へ帰るわけにはいかない事情が出来てしまった。
 今夜もある宿に泊まるつもりだが、それまでの時間をどうしたものか、と思いながら勘定を済ませてとりあえず外へと出た。
 普段来ない街路の北の端、その更に北へと歩いてみる。
 人通りの多い大きな橋が視界にあらわれた。
 殆ど来たこともないあたりだから珍しく、暫く眺めているとはっきりと一つの声が聞こえた。
「惣助兄ぃ!」
 だっ、と人込みを割ってやってくる黄色い人影、後ろには廉次郎が笑みを浮かべてついてきていた。
「由紀彦!?お前、なんで…」
「惣助兄ぃの様子がおかしいから…心配で、探してたんだよ…!」
 もう!と見上げてくる彼に、悪い、と短く詫びた。
「惣助殿」
 廉次郎は両の目を細くしならせて言った。
「皆、心配しているんですよ?実時殿と何があったのか、訊かせていただけませんか?」
 惣助は、少し逡巡するように川に視線を流し、暫くの沈黙の後答えを出した。
「……ここで立ち話もなんだろ…栄屋まで帰ろうぜ」
 それを廉次郎が了承し、奇妙な三人の沈黙の中、栄屋まで戻る為歩き出した。

 □

 一方、美景・鈴音・舘羽の三人はすぐに目的の人物を発見した。
 実時は自分の屋敷で何やら書き物をしていたのだ。
 すぐに中へと迎え入れられると、たくさんの猫に歓迎を受けた。
「……いつもながら凄い数ですね…」
 その数に腰が引けながらも、鈴音は膝にトラ猫を乗せてやった。
「……なんの用か、と聞く必要はなさそうだな…」
 ふっと実時が視線を下げた。
「………惣助の事か」
「その通りです」
 ずばり、と受けたのは舘羽だ。
 更に、美景が後を続ける。
「あの…どうしたんですか、一体。今日のお二人は随分様子がおかしかったです」
「そ、そうですよ!それで私達、心配でこうやって来たんです…」
 実時は三人の瞳に見つめられ、表情を変えた。
 眉を下げて、困った表情を作ったのだ。
「どうしたのか、など」
 困って困って、言葉を詰める。
「そんな事…私が訊きたい」
「え」
 予想していなかった答えに三人は三者三様に驚いた。
「私は、てっきり隊長が猫関係で惣助殿を怒らせたんだと思ったんだけど」
「僕も大体そのような予想を…」
「…………。ひ、左に同じです……すいません……」
「…………お前達…私のことを一体なんだと…」
 実時は隊士達のあまりの言い様に憤りをあらわにするが、まあまあ、と舘羽が手を眼前でひらつかせた。
「昨日の夜、何かがあったの?隊長の言い方では、惣助殿が何かしたようにも聞こえないんだけど…」
 む、と実時が考えるように眉を寄せる。
「……昨日の昼間は何事もなく…朝起きてみたら猫に餌があっただけで惣助がいなくなっていた。屯所でも妙に惣助が私を避けるので…話しかけづらくてな…」
 ふむ…と四人考え込んで。鈴音の膝の上で暇そうにトラ猫が甘く鳴き声を立てる。
「昨日の晩は……どうされましたか?」
 美景が訊くと、実時はどうということもなかったぞ?と返しながらもぽつりぽつりと話し出す。
「私の方が遅く帰ってきて、帰った時には夕餉の用意が出来ていたので三人で食べて、惣助は片付け、由紀彦は猫の世話、私は書き事をしていた。それから少し惣助と…」
 と、実時が何か気がついた顔をする。
「そうだ、少し奇妙な話をした」
「奇妙?」
 どんな話です?と鈴音が訊くと、それがな…と少し困ったように。
「……『俺はそろそろこの屋敷を出ようか』と」
「それは、また…」
 大きな話じゃないか、と舘羽が言った。
 江戸に出てきて無頼者暮らしをしていた惣助を拾ってから、実時はずっとこの屋敷で彼と暮らしている。
 それが自然になっているから、実時も随分驚いただろうに……「今までそれが怪しいって気がつかないのが不思議だよ隊長…」
「ああ、私も自分が信じられん。…それで…惣助は確か『俺が今出ていったら困るか?』とも言っていた」
「そ、それで」
 美景がその惣助の不安な言動に、やや身を乗り出して聞いた。
「隊長はなんて答えたんです……?」
「私は、確か…ああ、そうだ…」
 一生懸命他愛もない言葉を思い出した、といった様子で、実時は答える。

 □

「『お前が出ていったらミケやタマやクロが困るだろう』っつったんだよ…」
 栄屋で、惣助と向い合って座った廉次郎と由紀彦は、同時にかくんと肩を落としそうになった。
「し、信じられない……。実時兄ぃって……」
「惣助殿がどんな気持ちで告げた言葉なのか、全くわかっていないようですね…」
 惣助がつい先程告げた、言葉の真意を既に聞いている二人はやや実時への苛立ちを募らせている。
「私、失礼ながら片桐さまが結婚出来ない理由がわかったような気がします…」
 と、応じたのは飲み物を運んできた、栄屋看板娘の若菜である。
 ありがとうございます、と廉次郎は礼を言ってから、周りを見た。客は少ない。
「惣助殿…若菜殿にもお話を聞いて頂いて構いませんか? 若菜殿の…女性の意見も聞いたほうが良さそうです」
「え?ああ…構わねぇけど…」
 惣助は廉次郎の言うことがよく理解できないようではあったが了承。
 若菜も、今ならお客様も少ないですし、大丈夫ですと請け負った。
「あの、私はただそこで猫の話を出したことについて無神経だって言ったつもりなんですけど…」
 若菜は小首を傾げてみせる。
「坂上様が屋敷を出てしまうほどの理由が、何か…?」
「ああ…さっき話してたときに、近くにいなかったもんな。俺の過去については…前に話したことがあるよな?」
 ええと、と若菜は考えて答える。
「坂上さまは喧嘩に明け暮れていて、片桐さまに拾われ…」
「もう一つ前だ」
 若菜は眉根を寄せた。
「では、《事故》で義理の弟君を…」
 ああ、そうだ。と惣助は回想するように目を一度閉じた。
「それで、俺は家に迷惑がかかると思って江戸まで出てきた。仕事がなくて荒れた生活をしていた時に、実時に拾われたんだ」
 今でもはっきりと思い出せる、あの時に交えた刃の煌き。



 『ふむ…いい腕だ…。住む所がないなら、うちに住むといい。まだ発足したばかりの隊で、人手が必要でな』

 惣助、といったな。
 彼はそう確認して、ふっと無表情に近かった顔を緩めた。

 『私にその力を、貸して欲しい』



 惣助は回想から戻る。前には三人が座っている。
 居心地悪く、腕を組みなおした。
「……今まで実時の屋敷に置いてもらってたがな…俺は、ずっと…」

 □

「ミケやタマやクロって……!」
 驚愕というか寧ろ呆れた鈴音は、横で「だめだねもうこの人は」と舘羽が呟くのを聞く。
 ははは…と呆れたように美景も笑っている。
 疑問でいっぱいの顔で実時が問うて来た。
「………まずかったのか?」
「まずいですよ!」
 くわっと反射的に返した鈴音は、こほんと一つ居心地悪げに咳払い。
 左の二人と前の実時に一つの確認を取る。
「あの…これから私、ずばっと隊長に申し上げたいことがあるんですけど…いいでしょうか」
「うん、言ってあげたらいいよ」
「……はい…お任せします…」
 舘羽と美景はさらりと同意。実時も訝しげに無言で肯定の頷きを返した。
 よし、と鈴音は少々息を整える。
「隊長、もっと惣助さんの身になって考えて下さい」
「惣助の…?」
 はい、と頷く。
「惣助さんに過去の話を聞かせて頂いたから、分かります。ずっと惣助さんは不安だったんです。いつまで自分はこの屋敷にいて良いのか、自分は隊長の役に立てているのか、邪魔者なんじゃないか…少し考えたら分かりますよ。隊長は、まだ御嫁さんを貰っていませんよね。それも、惣助さんは気に病んでいるんです。由紀彦くんはともかく、自分がいたら隊長が妻を娶ることの妨げになるのではと」
「そんな…!」
 もう少し聞いてください、と鈴音は遮る。実時はそれに従い、素直に口を噤んだ。
「……そして、多分惣助さんは、片桐家の名を自分が汚すのを恐れてます」
「それは、何故だ?」
 分かっているのに認めたくないのだろう、実時は鈴音に問うた。
「……自分の身を護る為とはいえ、弟さんを殺したからです。人殺し…しかも近親殺しをした男を置いている、それが知られたら多少の差はあろうとも、武家・片桐家の名に傷を作るのは確実です。そういった不安が重なって、惣助さんはふと訊ねてみたんです。隊長にとって、自分が役に立っているのか。まだ屋敷にいても良いのか、自分がいなくなったら、困るのか」
 実時はあっけに取られたように呆然としている。
 美景が、困ったように笑んで言った。
「……その答えが、猫ですからね…」
 ねぇ、と舘羽が同調し、にっこり、と爽やかに隊長へと笑いかける。
「周囲の私達が気づけたことに、なんで近くにいると、気がつけないんだろうね」
 実時は暫く呆然と空間をみていたが、何かを振り払うように何度か頭を振った。
 力のない声だった。
「……言わなくても、分かっていると思っていた。分かっていてくれると…」
 ふふ、と自嘲の笑みが溢れる。
 長い時間を共にして来たから、言わずとも分かってくれると思っていた。
 妻などまだ迎えたくない。今の生活が大事で、他愛ない話を三人ですることで、どれだけ自分が癒されているか。
 いつもありあわせのようでいて、栄養を考えた食事を作ってくれることにどれだけ感謝しているか。

 『俺は頭はよくねぇけど、俺に出来る事なら手伝うからな』

 そう本心から言ってくれたことが、どれだけ嬉しかったか。
 自分の半ば強引な白狼隊への勧誘についてきてくれた時から、どれだけ自分が救われたことか。
「私は…」
 自分の無神経さに、今更ながら腹が立つ。
「私は惣助に与えられるだけ与えられて、傷付けてしまったんだな…」
 重苦しい沈黙が落ちた後、すっくと舘羽が立ちあがった。
 三人の視線が注がれる。
「行こう、隊長。惣助殿の所へ」
「え……」
 従って、鈴音と美景も立ちあがる。
「言わなくて伝わることもあります。でも」
 美景の言葉を、鈴音が接いだ。
「言わなきゃ、伝わっていないこともあるんです。行きましょう」
 だが…と躊躇う様子を見せたが、実時はとうとう頷いた。

 □

 再び、栄屋。
「………って事だ…。俺は、実時の邪魔にはなりたくねぇ。だから俺が出てって困る事があるかって聞いたんだが…」
「その答えが、猫ですか…」
 予想以上の酷さに三人絶句。
 惣助は、一度深く溜息。
「聞いた時には俺も頭に血が上って…猫の世話係かよって思ってな…実時が寝てから屋敷を出たんだが…。今考えると八つ当たりのような気がすんだよな…」
 で、どーする?と由紀彦が言った。
「どうする?俺、惣助兄ぃが帰ってこないとやだよ?」
 それは…と廉次郎が口を開きかけた時だった。
「惣助!」
 はっ、と惣助が顔を上げ、三人が振り向くと、実時、舘羽、美景、鈴音の四人がいた。
 ちゃんと伝えるんですよ、と鈴音が声をかけ、実時がこちらへ歩んでくる。
 ……私達は邪魔者ですよね。
 そう思って立ちあがる。同じように考えたのだろう、若菜と、慌てて立ちあがった由紀彦。
 やってきた三人と共に席を外し、外へ出て待つことにした。
 若菜は奥へ引っ込んでいれば良いのに、やはり皆と共に外へと出た。

 □

 皆が出ていってから、客も丁度一人もいない栄屋で、惣助も立ちあがり実時と顔を見合わせていた。
「鈴音に、指摘された。お前は、私の役に立てているのか…お前が屋敷に残ることで、私が妻を娶ることの障害になるのでは…お前が過去に、弟を殺した事で、片桐の家格を傷付けるのではないか、そんな不安を持っているのだと」
 一拍置いて、何かを懇願するような声で実時は言う。
「……本当、か?」
 対する答えは短い。
「ああ、そうだ」
 途端に実時は、滅多に見られない表情を作った。今にも泣きそうな顔を。
 これには惣助がたじろいだ。
「お、おい?」
「……言葉にしなくても…伝わっていると思っていた。私にお前が必要な事は、言わなくてもいいと思っていた。だから昨晩無神経な事を…!」
「いや、ちょっと昨日のは俺が…」
 ぐい、と右腕を引かれ、途端に姿勢を崩した惣助。
 その首、肩のあたりに、実時の腕が絡んだ。
 泣きそうな子供が、母にしがみつくような様であった。
「私は、結婚などしたくない。惣助と、由紀彦と、三人で暮らしている今が楽しい。お前が私の屋敷にいて、私がどれだけ…救われたか。私は…私は家格などいい。父母には悪いが…私は自分が貶められても一向に構わん。だから、お前に」
「実時」
 あやす様に頭を軽く叩かれ、言葉が告げられる。
「分かった。もう、いい」
 ふっ、と惣助の顔が緩む。
「俺の居場所は白狼隊で、お前の屋敷で、いいんだな?」
「ああ」
 うん、と一度頷いて、惣助は晴れやかに言った。
「馬鹿みたいだよな俺達。毎日あれだけ近くにいて、通じてねぇなんて」
「ああ、馬鹿みたいだ」
 腕を絡めまだ放さないまま、実時は短く笑い声を立てた。
「……少しは、言葉に出さなくてはいけないこともあるようだ。」
「だな」
「………惣助、ありがとう」
「こっちこそ、だ」

 そうして、外で待つ彼らはまだ暫く、中へ入ることができなかった。


- 作者様より -
 四周年は白狼隊で何か…と思ったらいつの間にかこんなものができておりました。
 ……また五周年で頑張ります。


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